2023年3月30日木曜日

3月の終わりの庭





きょう、三月三十日午前十時、わたしの知らない間に
レンギョウの最初の花が咲いた。
この歴史的な瞬間を、どんなことがあっても見逃してはならないと思って
小さな黄金の鞘に似た、いちばん大きな芽を
三日前からわたしは見張っていた。
雨が降るかな、と思ってわたしが空を見あげた間に
その瞬間が来た。
あしたはもう、しなやかな若い枝が
どの枝もいちめんに黄金の星をまきちらしたようになるだろう。
ひきとめようとしても、ひきとめることはできない。

カレル・チャペック「園芸家の12ヵ月」





子どもの頃、この家の南側はレンギョウの垣根だった。垣根の先は空き地で陽当たりが良くて眩しいような明るい黄色のその生垣が大好きだった。

そろそろ咲くかな、もう咲くかなと「歴史的瞬間」を見逃すまいとしているのに、花はいつだって知らぬ間に咲く。
どんな花も楽しみだけど、春一番に咲く“黄色”の輝きは格別。




たたんだ扇をひらくがいい。うぶ毛をはやしてねむっている芽よ、目をさませ。
スタートの命令が、もう出たのだ。
楽譜にのらない行進曲の、はなやかなラッパを吹き鳴らすがいい!
陽をうけて光れ、金色の金管楽器。
とどろけ、太鼓。吹け、フリュート。
幾百万のヴァイオリンたちよ、おまえたちのしぶき雨をまきちらすがいい。
茶いろとみどりのしずかな庭が凱旋行進曲をはじめたのだ。

カレル・チャペック「園芸家の12ヵ月」




3月の終わり。みどりが目を覚まして、花芽が動き出すこの季節の歓びが良く伝わる(笑)
笛太鼓を打ち鳴らすパレードのような?大袈裟なようだけど、庭をいじる人は、樹々の、みどりの凱旋に、密かに小躍りしているのです。






ネモフィラ。
スーパーでの買い物のオマケで種がついていて蒔いた。
手前は小鳥につまみ食いされた。




ギボウシ。
明るいライムグリーンに白い斑入りの品種。
昨秋買った。
大きくなったら庭におろそう。



水仙。
庭に置きっぱなしの鉢。
何年も咲かなかったんだけど。
なにか思い出したのかな。




地植えのギボウシ。
父が鉢植えにしていたのが根が回ってしょんぼりしてたので
株分けして庭のあちこちに植えて増えた。
ギボウシの自然な株の姿形が好き。

手前はウツギ、卯の花。
もうツボミがたくさんついている。





ナミアゲハの越冬蛹。
無事に羽化していた。




キンカンを伐っていてみつけた。
2センチちょっと、小さくて真っ黒で。
先々週の気温の高かった時にも羽化してなくて、生きてるのかなぁと思ったけど今日羽化していた、らしい。蝶の姿はみていないけど。
昨秋から、10、11、12、1、2、3月。半年、この姿でここで生き延びたんだね。
花の咲くのを待って羽化するというのを知って驚く。先々週の初夏のような気温にも騙されなかったんだよね。この一週間の雨と気温の高下をちゃんとやり過ごして、いろんな花が咲きだすタイミングで羽化。なんて賢い。

ベランダのアゲハ保育園の子達もどこかで羽化できてるといいな。
そうだ、レモンの種を蒔こう。







2023年3月28日火曜日

「放浪の画家 ピロスマニ」







ピロスマニは生涯の大半を日々の糧とひきかえに絵を描き続けた。ギオルギ・シェンゲラヤ監督は、画家の人生と魂を清冽に描き、その姿にジョージアの人と文化、歴史、風土への思いを重ねた。イコンに例えられるピロスマニの絵に映像は倣い、映画は崇高な輝きを帯びる。(岩波ホール・作品紹介)

1969年製作/87分/ソ連
原題:Pirosmani
日本初公開:1978

ギオルギ・シェンゲラヤ監督































シーンの背景にあるのはピロスマニの絵。
「日々の糧とひきかえに」描いた絵は
トビリシの酒場の壁を飾った。

映画の中のひとびとの配置も構図も
とても絵画的。
連作「ピロスマニの絵のある風景」とでもタイトルしたいような。














ロシアの西の端、トルコの東隣。
コーカサスの国ジョージアの風景も街もひとも
それらのシーンの切り取り方も良くて
この映画の「画」が好きだ。



キリンの絵。

ピカソが
「グルジアに私の絵は必要ない。ピロスマニがいるから」
と言ったとか。




 

2023年3月25日土曜日

2023/03/25




 

◆土曜日 雨

花散らしの雨というけど、ほんとうに。
昨日満開に見えた桜が、今日の雨ですっかり散ってしまった。
コブシもユキヤナギも。花は忙しない。
雨に散ってしまう花より、雨に降られる日を重ねるごとに瑞々しさを増す葉の緑が、私は好きだ。

  *

最近たまにランチを食べに行く居酒屋さん。
丁寧に火を入れて、ふっくら焼きあがったホッケが美味しい。
大根おろしとレモン。
糠漬けキュウリと冷ややっこ。
副菜の小鉢、今日は竹輪と切り干し大根、昆布の煮物。
ご飯とみそ汁。
座ってスマホ覗いてたら出てくるご飯。ありがたし。



2023年3月23日木曜日

「DISTORTION」

 




そっか、タバコの煙を吐き出す息の音だったんだ。
曲の一番最初、ライターの火をつける音が入ってるね。

カチ…カチ…





この曲は
VIVIAN KILLERS TOUR で聴いたと思うんだけど
セットリスト探したら
横浜ベイホールで演ってた。
チバ聴き始めたばかりで、この曲はまだ知らなかったはず。
ライヴだから、タバコの一服は再現されてないだろうな。

ツアーの後半はセットリストから抜けてた。
マイナーな曲だし。

このツアーは
横浜、川崎、お台場とライヴみっつも行ったんだよなぁ。
2019年。
コロナ前夜、チバ初年、ほかにもいろいろあった年。

はぁ…思い出すとため息が出る。
タバコ呑みなら一服つけたくなるってとこかな。







これ、イマイさん時代の曲だし
MidnightBankrobbersで演らないかな。
チバの一服つきで。




2023年3月22日水曜日

2023/03/22

 



◆水曜日 晴れ

仕事中にPCを使っていて、突然眼のピントがずれて焦った。
ヒビの入ったレンズ越しに景色を見てるみたいな。ほんの一瞬で治まったけど。
眼精疲労かな、ちょっと前から右目の奥にじんわりとした痛みがある。
そういえば昨夜、右耳に耳鳴りがした。突発性難聴かな?
耳鼻科行くか、眼科行くか。どっちも行っとけ、と。
こういう身体の不協和音でるのってたいてい春だなぁ。

近所のオオシマザクラが八分咲き。
良い匂い。




2023年3月21日火曜日

「新根室プロレス物語」






2021年製作/作品時間45分

演出:湊 寛  
編集・取材:堀 威  
プロデューサー:吉岡史幸  
制作著作:北海道文化放送 


北海道根室市のアマチュアプロレス団体「新根室プロレス」を率いたサムソン宮本の足跡をたどる。古びた玩具店を営むサムソンは、少年時代からの夢がプロレスラー。地元の会社員や酪農家たちに声を掛け、2006年に新根室プロレスを旗揚げした。娯楽性の高い試合と個性的なキャラクターのレスラーたちが注目され、さらに身長3メートルのアンドレザ・ジャイアントパンダが登場したことで、彼らの人気は一躍全国となった。そんな時、サムソンの体が病魔に侵されていることが発覚。残された時間をどう生き切るか。仲間たちはどう受け止めたのか。プロレスラーとして、父親として、男としての覚悟とけじめをカメラが追った。



 *


無理しな~い ケガしな~い 明日も仕事~♪

このコール、良いね。




キンカンの実に切り込み入れながら何か観られるものないかなぁ~と、日本語のこのドキュメントを再生する。字幕読まなくて良いので。


地方のアマチュアプロレス団体の悲喜こもごもなのかなぁと思いながら、紹介文も読まず横目で観はじめる。実際、悲喜こもごもなんだけど。。

前に観たミッキー・ローク主演の映画「レスラー」を思い出す。
花風に「深夜ドキュメント 55歳それでもリングで跳ぶしかない」的なのやめて~と書いたんだけど、リアルにロープから跳ぶサムソン55歳……💦 癌が全身に転移、半年前には肺の切除手術、それでもリングにあがる。


プロレスって何だろうか、不思議な、スポーツ? パフォーマンス? 興行?
プロレスファンってほんとにプロレス好きなんだねぇ(…うまく言えない💦

新根室プロレスには格闘技の猛々しさはまったくなくて。筋肉もりもりとはいかないアマチュアだからでもあるんだけど、無理しないよぉ怪我しないよぉ明日も仕事だっしょ、、という北海道のひとの“あずましい”気質なのかな。リングに上がるひとたちも、リングサイドで声援おくるひとたちも、みんな優しい。熱狂とかではなくて、みんなを幸せにしてる感じ。

フィクションの「レスラー」に感じたいたたまれなさは、ここでは根室の人たちの微笑みながら滲む涙に吸収されてしまったみたい。


花風「レスラー」

2023年3月20日月曜日

2023/03/20




ヒメコブシ


◆月曜日 晴ればれ


今年は咲かないだろうと思ってた。
昨年、6月に植木屋さんにはいってもらったから。
横に張りすぎていた太い枝を何本か落としてもらったので
結構すかすかになっていたし
来年(今年)の春は無理だろうなぁと思ってたんだけど。

剪定の後、頑張って花芽をつけてくれたみたい。
うれしい。





2023年3月19日日曜日

キンカンの食べ方。






今年はキンカンはママレードにしようと思ったのだけれど。

ヘタをとって
実に5か所くらい切り込みをいれて茹でこぼす
皮と甘皮とタネとわけて
細切りに刻んで
……

皮と甘皮、タネを分けてる途中で力尽きた。
ユズやレモンのような実ならいざ知らず
直径3センチの実が300個以上あるんだもん。
(たぶん。数えてない)
タネだけとってミキサーにかけた。
ジャムに変更。


結論。
キンカンは生で食べるのが一番。





2023/03/19

 







◆日曜日 晴れている。


ウエディング・ブーケをチューリップにしたいと思ったのだけど
水が切れるとあっという間に花がひらいてしまうらしく諦めた。
30数年前の今日、結婚式をした。




2023年3月18日土曜日

2023/03/18

 





◆土曜日 冷たい雨

大阪って、30年以上前に5時間くらい滞在したことがあるだけ。
関空できる前だから、伊丹? 空港の近くの町を歩いた。
昼下がりの商店街で、セーラー服を着た限りなくお婆ちゃんに近いおネエさんが咥え煙草で客引きしてる姿だけ覚えている。強烈で。
大阪行くこと考えると、アジア旅行並みにハードル高いな。ひとりでのんびり街歩きとかできる気がしない。


「グロリア」




1980年
ジョン・カサヴェテス監督・脚本
ジーナ・ローランズ主演






タバコが様になる。
80年代、いまみるとエレガントに見える。
マフィアのボスの元情婦だけど。
だから?













スマホを取り出してカメラを向けるくらいの
カジュアルさで銃を構える。



「グロリア」ひっさしぶりに観たけれどやっぱり面白かった。
話の展開はわかって観てるのに、前半1時間、緊張感あるなぁ。
ジーナ・ローランズを見てるだけでもいい。
おでこの皺がいい。睨みつける目がいい。
ガキ連れでとりあえず逃げようって時にナイトガウンをバッグに詰めるのがいい。
昔の男に会いに行くタクシーの中で髪を手櫛で整えるとか、いい。
銃とタバコとハイヒール。


「レオン」「ジョン・ブック」「依頼人」とか同様モチーフの映画、どれも面白く観たけどやっぱりこれがオリジンだよね。


  *

ニューヨーク舞台の映画だと、だいたい遠景のカットがはいるもんだけど、ここにもツインタワーが聳えていて。グロリアからの20年、またさらに20年とか、ふっと考えちゃう。良いのか悪いのか。意味もないんだけど。



2023年3月17日金曜日

2023/03/17




 


◆金曜日 曇り 


だから、もう、何度もなんども言ってるけど
いま、自分の健康を守るためにお金使わないでなにに使うの?
そりゃお金持ちではないけど、絶望的に貧乏なわけじゃないんだから。
それで明日破産するわけじゃないじゃない。
貧乏性とか言って肯定しないでほしい。
なんかものごとの優先順位間違ってるよねぇ。



2023年3月16日木曜日

金柑を収穫する。




蕪と金柑のサラダ。


 



ユズ、ミカンは不作で、収穫するほど生らなかったけれど、キンカンは豊作。
だいぶ枝が混んできていたので、剪定かねて収穫する。

ベランダに届く樹高なのだけど、すぐ下に物置があるのでその屋根に上がって伐れるので剪定もまあまあ楽。内側の枯れた枝、徒長した細長い枝、混み合った枝を伐る。
実ごと枝を落としたら、ゴミにだせるように短くカットしつつ収穫。音楽を聴きながら鋼の鋏をぱちんぱちん鳴らすこの作業がとても好き。
それでも枝の量が多くて、ちょっと果てしなかった。

なんだかんだ4時間くらい鋏使ってたから握力が死んだ。
そして全身筋肉痛。

長袖着て手袋して作業しても気が付くと腕がひっかき傷だらけ。
キンカンはやさしい棘だから作業中は痛いとも思わないんだけど、植物の傷ってあとから腫れてくる。

   
  

 


キンカンの実。
鋼の鋏の音、好きな音楽。
そして
ここには映ってないけれど
伐った枝から立ち上る柑橘の香り。
Harvest。

 


2023年3月15日水曜日

ユキヤナギ




雪崩咲くユキヤナギ。




塀際のユキヤナギをきれいに咲かせてあげられないでいたのだけど、今年はまあまあ、かな。真冬の3か月、葉を落として枯れた(ように見える)細枝が塀の外にひゅんひゅん伸びているのは確かに「手入れされてない庭」の看板のようで。そこでご近所の目に負けると(ウチのご近所の目なんて優しいもんだし、負けるもナニもないのに)、剪定してますよ程度だけど伐り揃えたりして、でもそれやると自由奔放なはねっかえりの芽を摘むことになる。
この冬は、我慢して放任したら塀の外できれいに暴れている。爛漫。






裏庭へ行く道をふさいでいた枝はさすがにすこし伐ったけどそれでも華やか。
白い小花が集まって咲く低木の春、好きだ。





2023年3月14日火曜日

2023/03/14




春色をした冬の花。
ツバキ。




◆火曜日 晴れ


昨日は、街中でノーマスクのひとをちらほら見かけた。
スーパーマーケットや電車の中で。
いままでウレタンマスクや布マスクしてたひとたちなんだろうなぁと思う。

ひとの動線が交わる場所への不安が高まるな。
コロナ禍が終息したとは、しつつあるとも、露ほども思っていないので。



2023年3月13日月曜日

2023/03/13





◆月曜日 曇り、ときどき雨


先週の陽気にはついてゆけない気分だったので灰色の空に憩う。
冬にはゆっくりゆっくり逝ってほしい。


予約していた「女たちの沈黙」「幻影の明治」を借りてきた。どちらも予約があるから早く読まなくちゃ、、、と思うと、ね。「幻影の明治」は渡辺京二が亡くなって読んでなかったことを思い出し。2014年刊なのだから急ぐこともないのだけど、思い出したときにページを開きたいというか。うん、訃報って心を動かすものがある。
でもまず読みかけの「すべての見えない光」を読み終えたい。


今日からマスク解禁?ノーマスク解禁?
どっちだっていいけど、“解禁”って言い方なんだよ?
くだらない。3年コロナ禍を過ごしてそこか。
不活化ワクチンは?コロナ治療薬は?PCR検査は?空調環境整備は?
この3年、なんにもなんにも、な、ん、に、もしなかったなカルト政府。



菊池寛「マスク」


スペイン風邪に怯える菊池寛、捻じれてマスクを憎みだす心理。


「文豪と感染症 100年前のスペイン風邪はどう書かれたのか」
朝日文庫



2023年3月8日水曜日

夢見が悪いのは春のせい







仕事の後に約束をしていて
身支度をするのにロッカーを開ける。

靴を履き替えようとして
あれ、この靴じゃないと思う。

靴を探して別のロッカーを開ける。
これも違う、この靴じゃこの服に合わない。

でもなんで、こんなにあちこちに私の服が詰まってんの?
私の15番ロッカーはどこだっけ?





目覚めて、起きるにはまだ早くて。
そうやって二度寝するときまって鮮明な夢を見る。


約束に遅れたくなくていそいそしてるのに靴がなくてイライラしてる。
目が覚めて。
ああ、そんな約束、もうないんだと気づく。
ほっとしながら淋しくなる。


春めいてきて寝床がなんだか暖かくなりすぎてるせい。
もう二度寝するのはやめて、目覚めたら起きてしまおう。




「永遠と一日」

 




詩人は言葉を買った

時とは、浜辺で石遊びをする子供

明日の長さは、永遠と一日








ブルーノ・ガンツって、いつでも時空を自在に行き来しているような気がする。



言葉も映像もとても詩的で美しい。
長回しのシーンは集中力と臨場感が生まれるというけど、この映画のロングショットはゆるりとしている。
長回しって映画の醍醐味だよね。


ギリシャって夏のイメージがあって、冬の終わりのモノクロームの景色が意外で。みんな黒っぽい服を着る。追憶の中の詩人の親族だけが白い服を纏って海辺の夏を楽しんでいる。それでも、画面の中は白と黒ばかり。三人の自転車乗りのレインコートの黄色、不法入国の少年のジャンパーの黄色、くたびれて項垂れる青年が担ぐ旗の赤が視覚に残る。あの色の使い方はなんだろう。

テオ・アンゲロプロスもアンドレイ・タルコフスキーも「どんな話?」に答えられない映画。答えようとするとどんどんつまんなくなるし、ただ黙って観てればいい映画。

「理解しようなどと思わないで、ただ観ればいい映画というものがある」とタルコフスキーの「ノスタルジア」を紹介したのは池澤夏樹だったんだけど、この「永遠と一日」に字幕・池澤夏樹とクレジットされてるの見て納得。



以上、とりとめのないメモ。


2023年3月7日火曜日

K2

 


K2 天空に触れる

原題:K2 - Touching the Sky
2015年製作/作品時間72分
撮影地:パキスタン
製作国:ポーランド

世界第2位の高さを誇るK2で1986年の夏に13人の登山者が命を落とした。「ブラックサマー」と呼ばれた悲劇からおよそ30年後、その子供たちが、かつて親たちが訪れたK2ベースキャンプを目指した。かつて両親を誘惑し、命を奪ったその魔力を体感することが目的だ。経験豊富な女性アルピニストでもある映画監督のエリザは、登山家であることと親であることの両立が可能かを自問する。生還者の証言は、荒れ狂うK2の恐怖を如実に伝え、残された家族の回想は、犠牲者への深い愛情を感じさせる。息を飲むほどに美しいカラコルム山脈の景色とともに繰り広げられる感動的な風景が、両親の選択や自分の情熱を理解しようとしている人たちの、複雑な心理と対照的だ。








K2 アルピニストの影たち

原題:K2 INVISIBLE FOOTMEN
2015年製作/パキスタン/作品時間54分

 このドキュメンタリーは、アルピニストたちを影のように支えてきたポーターたちの功績に光をあてる作品です。カメラはK2のポーターたちに密着し、彼らのありのままの生活を見せながら、ポーターたちがどのような立場に置かれているのかを明らかにしています。あまりに壮大なカラコルム山脈の美しい大自然と、世界一、二といわれるほど登頂が難しいK2の臨場感あふれる過酷な登山映像は見るものを惹きつけます。その上でこの作品は、現代の登山の在り方を考えるための意義深い問題提起となっているのです。製作者は言います。「この作品を1954年のK2世界初登頂に成功した際に両足全てのつま先を凍傷で失ってしまった高高度ポーター アミール メディに捧げる」




  *



世界第二位の山、K2のドキュメンタリーがふたつあった。
「アルピニストの影たち」が観たいと思ったのだけど、「天空に触れる」を先に観たほうが良いような気がした。

「天空に触れる」に登場する登山家とその家族は、K2に憑りつかれた人たちだ。
ブラックサマーに母親が遭難し、翌年父親も遭難、4歳で孤児となった息子は長じて登山家となり両親の眠るK2にやってくる。K2を目指さずにはいられないDNAの持ち主なのか。
出生前にK2で亡くなった父の足跡を辿る娘は、父を理解したとは言わなかったけれど、5,000メートルを登ってこれる程度には山のひとだ。

「アルピニストの影たち」のパキスタン人ポーターの存在を知った後だったら、憑りつかれた西洋人の話をちゃんと観る気にはならなかった。

K2登頂を目指すというのは最高のエクストリーム・スポーツだと頬を紅潮させて言うアルピニスト、憑りつかれてるとしか言えない。
そしてその憑りつかれた人たちの荷を背負うのは一日5ドルで雇われたポーター。

Wikiによれば「4人程度のアタッカーに必要な装備は、2011年のゲルリンデ・カルテンブルンナーの北稜登攀のケースでは、無酸素であっても総重量2.2トンに達する」と。
私なんかもホント想像力ないなと思うけど、登山隊と聞く時イメージするのは頂上で国旗を掲げるひとりかふたりと、ベースキャンプでバックアップする数人しか思い浮かばなかったけど、だれが2.2トンの荷物を持って標高5,000まで上がるんだよ、という話だよね。

パキスタンのポーターは、エベレストのシェルパほど訓練されていなくて、他に仕事のない男たちが命がけを承知でやっている。氷河を数週間かけて歩く。穴の開いた靴下と薄いズック、あるいは素足にサンダルで。普段着のままで。荷は25㎏で仲介人と契約したのに、実際は35~40㎏を背負わせられる。一日5ドル、でだ。

―――彼らは驚異的な働きをするんだ。自分たちの荷物だけで精いっぱいのはずなのに時には疲労したぼくの荷物まで持ってくれるんだ。
感動の面持ちで語る若い登山家の笑顔になんだか力が抜ける。