2023年8月16日水曜日

「襲撃」

 




 飢餓の冬と呼ばれた1945年、オランダ・ハールレム市で対独協力者の警視が殺害される。12歳の少年アントンの家が報復として<襲撃>され焼かれ無実の両親と兄を失う。伯父夫婦のもとで成長して医師となり事件とは距離を置き暮らすが、その<襲撃>の夜に関わる人物と邂逅し事件の全貌がすこしずつ立ち現れてくる。


オランダの小説家の作品って、初めて読んだかな。
1945年の冬のヨーロッパ。第二次世界大戦が終結しようとしている頃かな、くらいの認識だったけど。ノルマンディー上陸、パリ解放は1944年のことで、オランダの王家と政府が国外に逃げイギリスで亡命政府を維持していたというようなことはまるで知らず。オランダの解放は45年春にドイツが降伏するまで実現しなかった。飢餓の冬…厳しい闘いだったらしい。

第二次世界大戦といっても、西部戦線といっても、国で地域で街で村で、東隣の家で西隣の家でアントンの家族で、味わう苦しみはあたりまえだけどひとつひとつ異なっている。


作者ハリー・ムリシュの父親は第一次世界大戦時にはオーストリア・ハンガリー帝国の軍人で、母親はベルギー生まれのユダヤ人。
父親は第二次世界大戦の頃にはユダヤ人から没収した財産を管理する銀行の頭取をしており、戦後は対独協力者として投獄されるが、その父親の職業のおかげで母親とムリシュは強制収容所を免れることができた。
ムリシュは生前「私が存在するのは第一次大戦のおかげだ」と語り「私が第二次世界大戦だ」とも言っていた。


「誰もが有罪であり、無罪であるのか?有罪は無罪で、無罪は有罪なのか?」
<襲撃>の全貌を知ってアントンが抱いた想い。
600万人のユダヤ人が殺され、3人のユダヤ人とふたりのオランダ人が死を免れ、3人のオランダ人が代わりに死んだ。

父親の<罪>ゆえに、死を免れた母親とムリシュ。戦争犯罪人の息子でありホロコーストの生き残りでもあり、、、10代の思春期にWWⅡを過ごしたアイデンティティ。

「この世界では、良い事柄にもかならずや悪い面が含まれている。だがそれ以外にもまた別の面もあるのだ」

世界は複雑だけど、戦争はそれをさらにさらに複雑にする。




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