弊機 ―――この一人称、良い。
ビジネスライクな自称のようだけど、人間のように扱われたくない主人公の屈折と「弊機」とへりくだった言い方に滲み出るひと臭さのような。
ほんとよく一人称を「弊機」と訳したよね。凡庸な訳者だったら普通に「自分は」とかになってそうだもん。それだと体温というか肌触りが違ってくる。
原作ではなんと記述されてるんだろう。
「iBot」とか? なにか原作者の造語的なものあるのかな。
主人公が人類ではなくいわばロボットの進化系で、すんなり読み込めるかなぁと思ったけど、むしろ弊機の人嫌いなとことか距離を縮められたくなくてイライラしてるとことかすごい共感できる(笑) 警備ユニットとしてクールにプロフェッショナルにミッションをこなしながら「不愉快です」とか「話したくありません」とか思ってる本音が好き。構成機体ロボットのくせに、なに単なるコミュ障の若者じゃん、普通にいるよねこの感じの子、って思える。弊機は不本意だろうけど、人間味ダダ洩れてますけど?(笑)
ジュブナイルのような、といったら弊機は「不愉快です」ってなるだろうな。未成熟な段階の人間に比べたら、弊機の知力体力レベルは1万倍くらいあるだろうからね。連続ドラマに耽溺して感情を学習しつつ、それを持て余す弊機の拗らせた少年のようなキャラクターはかなり好き。
だけどシステムに侵入してコード書き換えて乗っ取って支配するようなことがやすやすとできてしまうんだし、ほんとに暴走したら最強じゃない? 「顧客を守るようプログラムされています」と言ったってそれすら書き換えられるでしょう、やろうと思えば。実際、統制モジュールを書き換えて自由になってるわけだし。
仕事の中で人も殺してるんだけど、それってアシモフのロボット三原則はどこいっちゃったの?もう、そういう世界ではないのね。
弊機の、人間的な感情を覚えて戸惑いながらも「人間にはなりたくありません」というのが良い。そしてそれを人類と並ぶ多様性として受け入れようとしているコミュニティ政体がある。クールで良い。
人工知能もの、サイバーパンクもの、ってアイデンティティ突き詰めていって、フランケンシュタインの悲しみに行きがちだったけど、もうそういう時代は終わったんだなと気持が良かった。
とはいえダークサイドに落ちちゃう弊機Version2とかでてこないとはいえないし、弊機性善説に依ってて大丈夫なのーロボット三原則は大事よーとは思うけども。でもでも、弊機のクールな繊細さが魅力。