何が起こっているのか知らないほうがいい。
自分もその謎を作りあげた張本人なのだから――。
欧米各国で絶大な賞賛と人気を得た、不条理で物語にみちた新ロシア文学。
恋人に去られ孤独なヴィクトルは売れない短篇小説家。
ソ連崩壊後、経営困難に陥った動物園から憂鬱症のペンギンを貰い受け、
ミーシャと名づけて一緒に暮らしている。
生活のために新聞の死亡記事を書く仕事を始めたヴィクトルだが、
身辺に不穏な影がちらつく。他人の死が自分自身に迫ってくる。
<新潮社HPより>
タイトルと表紙絵に惹かれて借り出す。
作者も知らなくて、読み始めてから、ここはどこだろう?あ、そういえば図書館の本棚の一番最後のほう、ロシア文学のところにあったっけね。ロシア?時代はいつ?と確認する。
そっか、無くなった国の云々とあるのはソ連の事か、主人公が住んでいるのはキエフ。最近はキーウって表記するよね、そっか、ウクライナ建国は1991年、ソ連邦崩壊の年。
「ペンギンの憂鬱」なんともそそるタイトル。
舞台がニューヨークだったら洒落たストーリーが展開しそうだけど、1996年のキエフではそうはならない。
どでかい事件が起こるわけではないけれど、主人公に訪れるちょっとした転機がゆっくりと謎めいた気配を醸してくる。じわりじわりと、そうとは意識しないくらいの、でも明らかに「恐怖」に属する感情が自覚されてくる。
素朴な優しい文体が描き出すペンギンの不思議な存在感と不穏な空気。
当時のウクライナの社会状況への風刺や批判のように深読みできないこともないし、この小説を読みながら近現代史のおさらい――いや、初めて知る事柄だけど――したけれど、純粋に読めて良かったなと思う読書でした。
新潮社のクレストブックはほんとにはずれがない。
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