読み始めたのは冬だった。
春と長い夏と、立冬を過ぎて読み終える。
数ページを読んで枕元に置く。
何日もそのままで。
続きを読む。
読み難いわけでも読みたくないわけでもない。
先を急ぎたくない物語ってあるのだ。
貸し出し期限が来て図書館に返す。
また借りる。
返して、借りる。
3回繰り返して少しづつ読む。
図書館で借りて読み切れず返した本は
たいていはそのまま縁が切れてしまうけど。
この本はゆうるりと
図書館の棚から連れて帰りたいと思い。
こういう読み方は初めてしたかな。
1ページか
長くても10ページないかな
短い断章が連なって語られる
少年と少女の
1934年から1944年。
それぞれの日々。
ひとの人生の記憶って
どれもこれも断片で
物語れるような冒険譚などなくて。
だから貝殻標本の冷たい感触や
短波に乗って流れてきた月の光や
渡る鳥を見上げたときの空気の匂いや
缶詰の桃の舌触りや
シロップの甘さが
記憶に降り積もってひとを満たしてゆく。
ちいさな幸運が訪れれば
その記憶を渡しあえるひとに
出会えるかもしれない。
ちいさな記憶が
誰かと出会わせてくれるかもしれない。
そんなふたりの断片を
標本箱を開けるように
フルカラーの鳥類図鑑を開くように
ながめていたくて
ゆっくりと読んだ。
ひとつひとつの断章が
133カラットのブルーダイヤの
精巧なカット面のようで
伝説のダイヤモンドを託されたような
気持になる。
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