2025年3月19日水曜日

美貌の青空

 


土方巽 「美貌の青空」 1987年





この文字の連なり。

この5文字だけで
推敲の余地のない完成された詩だし
大理石から掘り出された貴い人のような質量を感じる。

Bibo no Aozora.
美貌を び ぼ う と声に出したことなどあったかな。
圧倒的で人の世界ではほぼほぼ使い途がない。

青空に冠することでやっと発語できたね、と思う。





坂本龍一の作った曲の中で
Bibo no Aozoraがとても好きだ。
ヴァージョン違いをプレイリストに入れて聴いてたりする。
昨日の映画でもオーケストラヴァージョンが演奏されてた。
これは持ってないからそのうち手に入れよう。
でも、どんどんシンプルになって今は「Opus」のピアノが美しいと思う。

オリジナルの、坂本さんが歌ってるやつは入れてない。
大貫妙子ボーカルのも、入れてない。
大貫さんの歌はちょっと苦手なんだけど
「美貌の青空」というフレーズをどう歌ってるのかなぁと
コワいもの聞きたさで聴いてはみた。
坂本さんのピアノで歌うノーブルな感じは歌詞がよく耳に届いたけど。
何回もは聞けない。

この曲には美貌の青空という題名さえあれば
歌詞はいらない。


坂本・大貫のヴァージョンを聴いてて
ピエール・バル―のBoule qui rouleを思い出した。
この曲も大好きで繰り返し聴いてた時あった。
この曲もいろんな人が歌ってるようだけどバル―のが好き。
女声がそっと滑り込んでくるんだけど
この声の主はバルーの日本人の奥さん。
日本語詞だけど違和感なく良いなと思う。

渋谷にバルーの事務所があって
そこで雑貨とカフェをやってると知って
覗いてみたいなと思ってたんだけど
バルーが亡くなってお店も閉じてしまってた。
何年前のことだろう。


あれ、花風でピエール・バルーのこと書いた気がすると思って
過去日記を掘ったらあった。

あら、この曲のピアノ&アレンジは坂本龍一なんだね。
耳の記憶にリンクするはずだね。




『Ryuichi Sakamoto | Playing the Orchestra 2014』

 



2014年。サントリーホール。
この日、坂本龍一もすこし若かったし
デビット・ボウイもまだ生きてたんだよな、と思ったり。




遅い朝に、ネット巡回してたら
上映してるのに気が付いて。
上映時間を観たら12:10からで、この時間の上映は今日だけで
ちょっと迷ったけど、まだ十分間に合うかなと
支度して出かけた。

新宿の109シネマズプレミアム。
去年の夏前かな、『Opus』の上映が始まった時は
映画に4,500円かぁと、気になりながら見送ったんだけど。
最近階下の部屋でスピーカから流して音楽聞くようになったら
どんどん大きな良い音への渇望が嵩じてきて。
オーケストラなら音響の良いとこで聴きたいよね、
ゆったりシートでくつろいで聴けるなら良いな、
坂本さんがこだわって監修したシアターだし、
などなど、4,500円が気にならなかった。

こういうのも不思議よね。
同じ条件同じ値段なのに。




このソファチェア一脚、階下に欲しいわ。
これにオットマン付けたら完璧。





そして
自宅のスピーカーでは再現できない質量で
イヤホンでは聴けない音圧で
聴けてとても良かった。

ラストエンペラーや
戦場のメリークリスマスの音を
オーケストラが響かせる瞬間は鳥肌が立つ。



それと。なんだろう。
いまはもういないひと、の
そこにいた日の記録がなぜこんなに胸に迫るのかなと思う。
坂本龍一の曲はとても好きだし
よく聴くけれど
坂本さんというひとに沸き立つ感情があるわけではない。
なのにとても慕わしい気持が湧いてくる。
美しい和音に刺激されて涙がでる。
坂本龍一の作った音楽と、それに紐づく物語に涙が応える。
これは感動というのでしょう。

たぶん物語がないと感動しない。私は、ね。
物語は、30年前には存在しなかった。
歳をとって、自分の中の物語が
今日、坂本龍一の音楽と交じり合って心が動く。
歳をとったこと、年月生きてきたこと
それを、良かったんだな、と思える。



2025年3月13日木曜日

閉館する美術館へ行く






3月末に閉館するという
川村記念美術館へ行ってきた。



もうほんとにさ、閉館する、というのが
出かけていくモチベーションになるってなんなんだろう。


「なぜひとは、閉店する団子屋に行列を作るのか?」
BKNビジネス新書、読んでみようかしら?

散り始めた桜にそわそわしてしまうのと一緒だろうか?
桜はまた来年咲くけどねぇ。

閉店を惜しむ気持ち?
惜しむ気持があるんだったらもっと早く行っとけだわよね。
ずっと、そこにあったんだから。
行っとけば無くならないですんだかもしれないのにね。

前回来たのがピカソ展の時。
えっと、20年ほど前だわ。
美術館の作りも、広々とした庭も気持よくて
また来たいなぁと思いつつ、20年ですよ。

その間、どんな展覧会やってるのか
チェックすらしてなかったかも。

どんな新商品、新企画の広告より
閉店のお知らせのほうがまっすぐ届くんだよね、不思議。

そんですっとひとを動かす。
まあそれは、デッドラインが引かれているからでもあるんだけど。
締め切りないと宿題やらないもんね。
え?宿題みたいにやりたくない行きたくないとこなわけ?
違うのにね。なんなんでしょ。
まあ、ずっとあると根拠なく思ってるからだけど。
またいつか、はないんですよね。

閉店セール詐欺が有効なわけです。









すごい、アリバイっぽい写真だわw

当たり前だけど混んでて
滞在3時間半のうちの大半を庭で過ごす。

ロスコルームだけはゆっくりしたいと思って
午後なんとなくひとなみが引いたあとに入室。
それでもぽつぽつひとの出入りがある。
ここはひとりかふたりでぼんやり赤に染まりたい場所なんだけど。
(だから、10年前に来ておけと…w)








冬枯れの庭は良かった。
曇天だけどさほど寒くもなく。





なにしに行ったんだか、って感じだけど。

途中の、千葉の景色を見ながら思ったけど。
混みあって乱れた竹林や雑木林がそこここにあって
この綺麗な広大な庭も
ひとの手が入らず放置されたらあっという間に
侵食されて荒れ果てるんだろうな。

千葉の原野に還る前の
庭が庭であるうちに歩いておきたかったんだよね。
仮に市の管理公園として残ることになったとしても
行くことはないと思うし。

うん、ほんとに自分の行動の真意がよくわからないww
暇な隠居のやることだからさ、いいの。









注:BKNビジネス新書は存在しません。
BKN=BAKANANO?の略。




2025年3月5日水曜日

ひとは、忘れる。

 






ここにアップロードはしない日々の備忘録のような日記があって。
あそこ行ったのいつだった? あれはどこで買ったんだっけ?みたいな、忘れちゃってもどうってことない、でも残しておくと記憶のタブになるようなことを書いている。

一年前の春先のことで確かめたいことがあって開いてみたんだけど、ちょっと驚いた。
去年は特に、自分のことではない、でも書き残しておいたほうが良い行動記録とか買い物とかが多かったし、それに付随して波立つ感情も大きかったのであれこれ書き殴るような言葉が残してあった。
それを読んで、うわぁ、こんなに私辛かったんだぁ、と驚いたんだよね。
読んで驚くほどに、忘れていたってことなの。
ヒトは忘れて生きていく。忘却万歳!

もちろん、今現在、ああ、嫌だった、清々したっていう気持ではいるんだけど、それはほんと「去年嫌だったこと」っていうラベル程度の感情。毎日あったはずの不安、嫌悪、疲労、腹立ち、徒労感、八方塞がり感みたいな感情、リアルに心臓や皮膚感覚に現れるような感情はもうすっかり私の中から消えていた。
だから、備忘録をチラ読みしたら思い切り蘇ってきて、ゲゲっとなって慌てて閉じた。

忘れるって、素晴らしい。
嫌悪の実体がもうここにはいないんだから当たり前なのかもしれないけれど。
いまでもまだ「あ~腹立つ~」と思い出すこともあるけれど、観念的な感覚だけで、心身で実感するほどの痛みはもうない。
回復するってこういうことか。傷はない。傷に残してたまるもんか、とも思うけど。
忘れたことは忘れていいようなことで、忘れたままにしとけば良いんだな。




それとは逆のことも思う。
自分の人生で大切だった人との間で感じた痛みは傷として残ればいいと。
うん、ちゃんと残るよな。
その時は痛みが強くて、後には悔いに苛まれたようなことでも、大事な人との間にあったことは忘れようとしても忘れないし、傷になって残る気がする。でもそれは、たぶん優しい傷。指先でそっと撫でて、そこにまだあることを確かめたくなる傷。
そんな傷で満身創痍だったら、それはそれで良い人生かもしれないね。いや、そこまで切り刻まれたくはないけれども(笑)


忘れたいことも忘れたくないことも、忘れたんなら忘れていいようなことで、ほんとに大切なことは、忘れたようでいて深い記憶の水脈の底からでもふっと浮かび上がってくるんだろうな。







「ペンギンの憂鬱」






何が起こっているのか知らないほうがいい。
自分もその謎を作りあげた張本人なのだから――。
欧米各国で絶大な賞賛と人気を得た、不条理で物語にみちた新ロシア文学。

恋人に去られ孤独なヴィクトルは売れない短篇小説家。
ソ連崩壊後、経営困難に陥った動物園から憂鬱症のペンギンを貰い受け、
ミーシャと名づけて一緒に暮らしている。
生活のために新聞の死亡記事を書く仕事を始めたヴィクトルだが、
身辺に不穏な影がちらつく。他人の死が自分自身に迫ってくる。
<新潮社HPより>






タイトルと表紙絵に惹かれて借り出す。
作者も知らなくて、読み始めてから、ここはどこだろう?あ、そういえば図書館の本棚の一番最後のほう、ロシア文学のところにあったっけね。ロシア?時代はいつ?と確認する。
そっか、無くなった国の云々とあるのはソ連の事か、主人公が住んでいるのはキエフ。最近はキーウって表記するよね、そっか、ウクライナ建国は1991年、ソ連邦崩壊の年。



「ペンギンの憂鬱」なんともそそるタイトル。
舞台がニューヨークだったら洒落たストーリーが展開しそうだけど、1996年のキエフではそうはならない。
どでかい事件が起こるわけではないけれど、主人公に訪れるちょっとした転機がゆっくりと謎めいた気配を醸してくる。じわりじわりと、そうとは意識しないくらいの、でも明らかに「恐怖」に属する感情が自覚されてくる。
素朴な優しい文体が描き出すペンギンの不思議な存在感と不穏な空気。
当時のウクライナの社会状況への風刺や批判のように深読みできないこともないし、この小説を読みながら近現代史のおさらい――いや、初めて知る事柄だけど――したけれど、純粋に読めて良かったなと思う読書でした。

新潮社のクレストブックはほんとにはずれがない。


2025年3月2日日曜日

フキノトウ、冬~春




ふきのとう。

さっと洗って細かく刻んで米油で炒めて
味噌、砂糖、味醂加えて
蕗味噌。

小さなジャムの瓶に七分目くらいだけど
結構食べではある。

蒸したサトイモ、風呂吹きダイコンのトッピング。
昨日は、厚揚げに切り目入れてチーズと詰めて焼く。
どれも美味しいけど
炊き立てご飯で蕗味噌お握りにするのが好き。
握りたて、最高。



今年はキンカンの生りがよくないので
収穫しなくても良いかな。
そしたら、冬~春の庭ご飯はこれでおしまいかな。

今日は暖かいけれど
今週はまた寒波が来るらしいから
それが過ぎたらベランダのセイヨウニンジンボクを
庭に下ろそう。
夏から秋に、階下の部屋から眺められるように。

先月、モミジの剪定をしてもらった。
昨夏まったくモミジに手をかける余裕がなくて
夏の徒長枝がほんとうに情けない姿で。
今年は忘れず梅雨頃には剪定に入ってもらおう。

ヒメコブシの花芽が膨らんでいる。
あ、昨日は買い物の途中で沈丁花が匂った。
冬にはまだ終わってほしくないんだけどな。

ヒメコブシが咲きだすと冬をあきらめる。




この家はもう手放すのだと思いながら
階下の部屋の模様替えをしたり
庭に木を植えようとしたり。
なんだか中途半端だなとは思うけど
時が来ればたぶん一気に進んでゆくだろうから
その時まではゆるゆると庭を愛でよう。











2025年2月20日木曜日

石油ストーブ




石油ストーブ。
火がある、歓び。
冬が好きな理由のひとつ。




レモンの砂糖煮。

うちのレモン、大きいばかりで
白いワタ部分が多く果肉もなかったので
食用にしようと思ったことなかったんだけど。
今年、切ってみたら果汁がたっぷりになってて。

皮をピーラーで薄くむいて
細い千切りにして果汁だけで砂糖煮にしてみた。

レモンの皮はエグ味が強くて
たっぷりの水で3回茹でこぼした。
こんなに茹でてしまってたら
香りとか飛んでしまうんじゃないかなって思ったけど
コトコト煮詰めてたら甘酸っぱい匂いが立ち上がってきた。
食べてみたら、レモンの香りが濃くて
とても美味しい。
(砂糖の量はちょっとコワいけど)

柑橘類の皮ってどこにどうやって匂いの成分を蓄えてるんだろう。
素晴らしい。

でっかいだけの役立たずレモンとか、思っててごめん。
いや、鮮やかな黄色い大きな実は
唯一の冬の彩で、充分に存在感あるし
ずっと愛してるよ、ごめん。




昨日は寒かったので参鶏湯(モドキ)
昔は水炊き用に鶏の骨付きぶつ切りを売ってたんだけど
最近はみないね。
骨付き手羽を買ってきて冷凍庫のモモ肉、ムネ肉
クコの実、松の実、レンズ豆、もち米、干し椎茸
葱ショウガ、ニンニク、一夜干しダイコンなどなど
ぶち込みまして肉がほろほろになるまでストーブに放置。
コチュジャン味噌、柚子胡椒、ポン酢の味変で。




そして焼き芋。
安納芋は甘い幸せな匂いをたててあっという間に焼きあがる。

焼き芋には軍手。



ストーブのある冬の日々が好き。





灯油18ℓ・2,680円(2025冬)
店頭価格より300円ほど高いのは
トラックで売りに来てくれてるから。

月に5,000円くらいになるのかな。
安くはないと思うけど、付加価値がいっぱいあるから良いか。
ガスストーブつけっぱなしよりは安いのかな?
エアコンだって暖房は安くないよね?
う~む。。
光熱費の損得計算がいまいちちゃんとできない。