最終出勤は先月の29日。
4月から休職状態だったので、そのままフェードアウトしちゃいたいなぁとも思ったのだけど、まあ、それなりにオトナなのでそうもいかないかと担当していた仕事の後始末をつけに出勤して、あっちこっちにご挨拶して(メンドクサイ)、花束なんか頂いちゃって(メンドクサイ)面倒くさかった。
ラウンジに挨拶がわりに置いたお菓子、これもね、案外セレクト悩むんだよね(メンドクサイ) メッセージカードに、さてなんと書こうか。これはもう悩まなかった。
―――15年間 ありがとうございました。
それだけ。
“思いの丈”とやらを、綴って綴れないこともなかったけど、まあ、ね。
それがなにほどのものか、という、ね。
全社員に向けて切々と綴ってもね。
割と長いメッセージを置いて退職された方たちもいたし、読めばしんみりしたりもしたけれども、去る者は日日に疎しっていうのはホントウで。チョコレートがひとつ残しになって空箱を潰す頃には、不在であることも忘れられる。そういうものだ。
そうやって、私も何人も見送ってきた。
去るひとと残るひとと。淋しいのは残るひと。
去るひとになってみたら、会社への不満とかは雲散霧消して(もうどうでもよくなって)、人間関係はフラットで働きやすかったな、みんな人柄の良いひとばかりだったな(例外もいるけど)となり、最後に残ったのは「ありがとうございました」だったから、それだけ書いた。
一週間後。
返却しなければならないものがあって出かけた。
業務が落ち着いた頃合いを見て19時過ぎに顔出した。
入館証を返却してしまっていたので来館者用パスをもらって入った。
通用口から入ってエレベーターのボタンを押して待つ。扉が開いてエレベーターに張られた鏡を見る。15年間出社する自分の姿を映した鏡。事務フロアで降りて、左に行けばラウンジ、右に行けば事務室。ラウンジにも灯りがあって誰か知ってる顔が休憩をとっているんだろう。右に向かう。ラウンジの灯りにアウェイ感。懐かしさはなかった。
事務室にはMさん、Hさん、Tさん、Uさんの4人。
僥倖かって思うような、すごく好いメンバー。
ここにソノさんがいれば私の押しが揃ったんだけど。
挨拶して、Mさんに就業規則などを渡して
「これで終わりです」
と何気なく言った自分の言葉に一瞬「え?」となる。
お返ししないといけないものはこれで全てです、という意味で言ったんだけど。
「え?…サビシイ、かも?」ってなった。刹那、ね。
Mさん、Hさんには業務のこと勤務形態のことで相談に乗ってもらうことも多くて、ここ3年で一番お世話になったのもあって、改めて「有難かったなぁ」と思ったし、仕事のことを離れて話をして楽しい人たちだったし。仕事の手を止めて来てくれたMさん、Hさんと話しながら、ああほんとにこれが最後なんだなとすこしだけ後ろ髪引かれて、チリリと去りがたい想いが湧いたけど、私はもう既に“去った者”なのだった。
この瞬間の感傷は、My Best & Brightest と思うひとたちが揃っていたからなのだろうな。ここで過ごした15年への感傷だったかもしれない。なにも残さなかった、なにも残らなかった15年への。
もう一度、「お世話になりました。ありがとうございました」と言って事務室を出た。
初夏の夜を駅に向かって歩きながら、感傷はもうどこかに溶け始めていて、駅までの道を清々しく歩いた。